日本には古来から地域内で資金の工面を行う頼母子講とか無尽講なんていうシステムがあったそうです。
あったそうですと書きましたが、wikipediaによるとそれは地域によっては残っているようです。そして、沖縄では名前が「模合(もあい)」となっているものの、そのような仕組みが他の地域に比べて多く残っているそうな。
これがどのようなシステムかというと、みんなでお金を持ち寄り、必要な人から順にいくらか支払って資金を調達していくという仕組みです。面白い仕組みだなーと思うとともに、最近の暗号通貨の世界を見ているとこれに近いことが行われているような気がして、面白かったので取り上げてみます。
今回の記事のベースには「株式投資型クラウドファンディングと沖縄の「模合」 ~オートノミー・ベースの運用と「集合知」の可能性」 松尾 順介 がありますので、これを読んでもらうとより一層面白いし、議論も広げやすいと思います。
http://www.jsri.or.jp/publish/report/pdf/1708/1708_01.pdf
目次
模合をもう少し詳しく
模合の基本的な形式は、座元と呼ばれる人がその模合を作ります。そして、何人か信頼できる人を呼び、定期的に会合を開き(例えば月一回など)、その資金を取りたい人が取れるようにします。資金調達者はその会合の飲食代も負担します。持ち寄る資金は一口1万円とかいう感じで決められています。
資金調達のためには入札料が支払われます。落札者は以降の会合で口数プラス入札料を支払わねばならず、それが金利負担となります。
この仕組みは最近始まったものではなく1733年、江戸時代の半ばごろから行われており、歴史の長いものとなっています。
もう少し詳しく知るために、先ほどのレポートから引用します。
特徴
コミュニティ内での資金調達・提供。
基本的仕組み
模合手帳というものが市販されていて、その基本的な仕組みが記載されています。
入札および割戻金による決定
資金調達者(ここでいう借入者)を入札によって決定することと定めている。さらに、落札した入札者は、自らが提示した金額を割戻金として支払うことしている。(中略)慣例としては、座元は当然に初回の落札者となるとともに、割戻金は支払わないとされている。また、この規約では、入札となっているが、抽選や輪番などで決定することもある。
連帯責任
(略)ただし、模合において、資金調達者が次回以降の掛金を支払わず、いわば取り逃げが生じた場合、その処理を巡っては、様々な事態が生じる可能性があり、法学分野の研究で議論されている。ただし、筆者がインタビューした事例では、座元が一貫して責任を負ったとされている。
座料
落札者は、通常、当該模合の会合の飲食費を負担することと定められている。この会合は、模合にとって、重要な意味があり、親睦目的の模合は、この会合への参加が主たる目的となっている。また、資金調達・運用を目的とする模合でも、後述するように、会合を通じて、フェイス・ツー・フェイスの関係を保ちながら、信頼関係を相互に確認・維持しているものと考えられる。ただし、座料は、コーヒー代程度から居酒屋での会食費、ホテルやレストランでのパーティ費用に至るまで様々である。
実際の運用
実際の模合は、柔軟かつ弾力的な運用がなされるとともに、規約には定められていない運用が柔軟に行われているのが、実情であり、参加者によるオートノミー・ベースの運用が特徴である。
どの辺が面白いか?
というわけでこのようにコミュニティ内で資金の貸し借りが行われるシステムとなっています。
このシステムの面白いところは、時折持ち逃げなんかが起こりながらも300年近く継続されてるという点です。沖縄県で銀行システムが未発達であるかというとそうでもありません。
しかし、その発展の理由はよく分かりません。
どのような理由でコミュニティが持続されているか?
模合コミュニティを持続させるために、行われていることは色々とあるのでしょうが、レポート内ではクラウドファンディングとの対比で以下のような特徴が挙げられていました。
加入者の審査 模合への加入は参加者がその加入者に対して持っている情報から決定されます。過去に模合で持ち逃げをしていないかや、当人の会社の状況などなど。そして定期的に行われる集いにおいて会うことにより、そのデータをアップデートするというつくりになっています。
情報提供
これも会合がその役割を果たしています。フォローアップ
同上
これを見ると、加入するときの審査を自分たちの持っているデータから行い、その後は会合において相互監視するというのが模合を維持するポイントとなっているようです。
暗号通貨をみる
ICOなどを見ていると、資金の出し手はプロジェクトを監視する手段を得ておらず、資金を出してあとは運のような感じとなっています。なぜかというと、提出されたホワイトペーパー、ウェブサイトをもとに資金を出すだけでその後の動向を観察する術がほぼないからです。githubを観察するというようなこともできることはできるのですが、コードの内容をかっちりとチェックすることは難しいです。
というわけで、そんなもんにお金を出すなんて信じられんわな―という感じなのですが、たまにちゃんとやるやつもあって大いに値上がりしたり、ICOがほぼ買えずにセカンダリーで人気があったりして、値上がりするので、儲かるならやろうというのが続いているように思います。
模合では自律的にシステムが出来上がったわけですが、それは300年続いているからそうなっているということもあり初期には問題も多々あったのではないでしょうか?
暗号通貨のシステムにはノードが相互に監視して分散型プラットフォームを維持する仕組みが組み込まれています。一方で、資金を調達するICOには何も組み込まれていません。
この理由はというと、下にコインデスクのICOトラッカーを示しましたが、件数は減ってきているものの、ICOの調達額は衰えることを知らないということからでしょう。
金余りというのもそれを助長していると思いますが、金余りと言えども、その辺のシステムをしっかりと作らないと駄目でしょう。
P2Pファイナンス
7月17日のブルームバーグのニュースで中国のP2Pファイナンスの業者破綻が増えているという話が載っていました。
ちょっと英語版がリミットとかで読んでいませんが、これも見たことのない人にどのようにお金を貸すかのシステムが、まだそのシステムの初期段階なのでうまく設計できていないということなのでしょう。
最近はゴマ信用とか色々で来ているということなので、補完されていくと思われますが、それがない時期のものがあぶないということとか、業者自体が危ないとかいうことみたいです。
まとめ
分散システムというのはコストが長期的には安くなる可能性が高いですが、短期的にはそのシステムを上手くやっていくためのルール作りがなされないといけないということで、非常に高価になる可能性もあります。
一方で、長期的に見るとそのコストは現存のシステムを使っていくよりもかなり安価になるかもしれませんが、その判断を下すことがそれを分かっていない人には難しいかもしれません。
分散システムに必要なのは相互監視や、プレイヤーの知識だったりしますが、それがないとただの無法地帯となってしまうと思います。模合がいつ頃安定したシステムとなったのかは分かりませんが、ブロックチェーン/暗号通貨の世界もオートノミー的にルールが形成されればと思います。
その際にこのように昔から続くシステムが参考になるのではないでしょうか?